正司、五

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正司、五


夜明け前のまだ暗い山を登る。

この辺の林道は竹と杉があまり伐採されず、乱雑に伸びているので
昼間でも暗い。

時々腕の太さくらいの枝が道に落ちているが、
山寺の駐車場までの道はダートではなく鋪装れた道なので、
林道としては比較的走りやすい。

だが、歩行者がいたら車一台分ほどの道幅と細く、
しかも道の端はところどころ凍りついているのであまり加速はできない。

このところの雨が山では雪に変わるのだろう。木の影が深い場所は
雪がつもったままだ。

道はずっと上り坂で、助手席に深く埋もれた姿勢の僕にでも
時々路面が凍っているのがわかる。


初めて正司と二人で山へ来たときよりは雪は少ないが、
あの時を彷彿させる雰囲気に...。

当時とは違い今はシラフになった僕だが...何か安心感のような
ものを感じる。

『僕が禰彌さんから離れた理由...わかりますか?』
車のハンドルを油断なく切りながら唐突に正司が口を開いた。

車のカーステからは、当時の僕らが山でのドライブで頻繁に
好んで聴いた音楽が流れている。

https://youtu.be/ZR98iuOiOIk

曲に合わせて
...以前より数段下手くそになった歌を歌っていた僕は、
正司の言葉に遮られ口をつぐみ少し考える素振りをした。


『...正司のことやからな』

ひとことひとことを区切りながら僕の言葉を正司が
聞き漏らさないように言った。


『俺のためなんやろ?』

どんなふうに言葉にすれば良いのかわからないなりに言ってみた。


『一緒に山に行くようになったころの禰彌さんは
...僕から見てもメチャクチャ...ヤケクソになってるみたいで、
放っておけなかったんスよ。』

そんなことを言われ、僕はおもクソ恥ずかしかった(笑)。


『まあええやん、色々あったんや(笑)』
僕は照れながら言った。


『知ってますよ、全部聞きましたから(笑)、禰彌さん聞いても
ないのに喋りまくってましたやん?』


車は三叉路に差し掛かった。

右に曲がると山の上にある寺の駐車場に向かうのだが、
路面が雪で凍りついていて、ノーマルタイヤの正司のハイエースは
山を登れない。
左に行くと少し下にも寺と駐車場がある。

そっちへ向かうことにした。


アクセルを強く踏むとタイヤが滑るらしく、ゆっくり静かに道を下る。

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