正司、六

| コメント(0) | トラックバック(0)

正司、六


夜明け前の空の下、林道の三叉路を左に曲がる。
のぼってきた道とは別に山を登る道が右にと、別の方角に下る道が左にとある。

その曲がり道から緩やかな下り坂を五百メートルほど進み、
道なりに進んだ所に、その先にある山寺の広いグラウンドのような駐車場がある。

山寺は修験の寺で毘沙門天を奉っている。
辺りの山は山伏の行場(修行をする山)であり、聖域である。


シャブに狂っていた時代、この界隈を正司と二人で徘徊した。

寺の領内に渓流があり、また通ってきたばかりの、
山を一つ越えた大きな石の鳥居の横には、
峠を越える道にそって別の渓流がある。


正司は林道沿いのグラウンドのような駐車場の端にハイエースを止めた。

以前なら車を止めると直ぐに僕は、シャブキットを取りだし静脈注射をキメて、
シャキシャキに化けていた。
シラフでこの山に来るのは初めてかも知れない...と思った。


『ここにくるのは正司は五年ぶりくらいか?』
カーステの音量を少し下げながら僕が訊ねた。

『そうっすね、もう五年も経つんすね?』
正司は車のエンジンを切ると、以前と変わらないタバコ『LARK』の新しい封を切った。


初めて正司と来た山と同じ場所だ。


時間がたったのもあるが、シャブが無いのは何だか不思議な気持ちだった。

リュックを背負い車を降りた。

そろそろ夜が明ける。
山ではこの時間だとケモノを多く見かけた。

車を止めたグラウンドのような駐車場の端に、伐採した山の木々を束ねて置いてある。
そうした枝のうち堅さと太さが手ごろな枝を選び、その日の杖にする。


初めて正司とスパーリングをしたのも此処だ。
そんなことを一人思いだし、僕もタバコに火をつけた。

『山に来たら虫沸くな(笑)』
正司を見ながらそんなことを呟くと

『しっかし、止められるモンなんですね?シャブって』
タバコを吹かしながら、正司は僕の顔を見ながら言った。

林道の来た方角にゆき山を登る。
正司の問いを少し考えてから

『止めようと思ってやめたん違うで(笑)?』
そう言うと、
そら逮捕されたらまぁ止めますよね?と笑いながら正司が言う。

僕は苦笑いしながら
『そやろ?』と言って、ところどころ凍りついている坂道を歩いてゆく。
空が明るく朝焼けに映える。

歩きながら正司に逮捕の時の状況を詳しく話した。


どこを目指しているとか話をしたわけではないが、二人とも自然に林道の先にある山寺の方角を目指す。

山寺の手前に頑丈な鉄の車輌通行止めの下り道への分岐がある、そこを下ると渓流に行き当たる。
その分岐まで二キロほど山道を登るのだ。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://svahadevie.com/mt/mt-tb.cgi/538

コメントする

最近のブログ記事

Powered by Movable Type 5.2.13