正司、七

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正司、七

朝焼けの空の下、彼の地を歩む一人では何度となく訪れた、
正司と一緒にくるのは五年ぶりのことか...。


最初に正司を山へ誘ったときも冬の朝で...
その年は大阪でも積雪が多く見られ、二人で山の尾根を歩いたとき、
まるで雪原のような景色の中にいた。

死に損ないの僕は、確かに正司に揶揄されたように

『俺はシャブのオーバードーズで死ぬんや』
と口癖のように言い、
息子が産まれるころは一人で真夜中の山を徘徊し、何かを探した。

一年たった頃に僕は正司が働いていた店に顔を出して...つるみ始めた。
といっても僕が一方的に正司を山へ誘っただけだが。

そんな狂える夜を懐かしむ。


その日のトレッキング用の杖を脇に挟み、かじかむ手を揉みながら、
山道をのぼる。

林道の左手は土手というのか山であり、右は杉林だが激しい傾斜で
絶壁のようになっている。
時々森のなかから何かの音が聞こえる、我々の存在に驚いたシカか
シシだろう。


『禰彌さんの雰囲気...なんとなく変わりましたね?』
正司が白い息を吐きながら言う。

『憑き物が取れたみたいやろ(笑)?、嫁さんには言われるで』

そんなふうに答えると、そういうのもあるけどまた違うという。
僕には自覚出来ない何かが違うらしい。

『入れ歯で歯があるからかな(笑)?』
冗談を言うと、正司はケラケラ笑って違うという。

『僕は占いとかアテにしないですけど...
禰彌さんの雰囲気から死相?が消えたように見えます』

僕は正司の目をみて、そうか、と相槌を打った。

『僕が禰彌さんから離れたのは、もう俺が居らんでも大丈夫やと
感じたのと...』

正司の言葉を遮り、僕が
『ウザかったんやろ(笑)?』
そういうと、正司はニヤリと笑って

『それもあります(笑)、金貸せ金貸せとうるさいし(笑)』
二人は声を上げて爆笑した。


朝の峡谷に二人の笑い声が響く。


『禰彌さんなりに家族を思ってたんは気づいてました。
でもシャブは止めない、一緒につるんでいて段々怖くなってきたんです』

意外な言葉に振り返る。

空はもう白く、最初の目的地のもうひとつ山の奥にある山寺の
駐車場につく頃には明るくなるだろう。

『禰彌さんに娘さんも産まれて、子供が二人いて、
シャブは変わらないけど、仕事も始めた。
僕は半分安心しました、禰彌さんもあんまり死にたい、
と言わんようになったし...』

一旦言葉を切り、上り坂で息が切れてたのもあり
お互い体を大きく動かし伸びをした。


『俺は禰彌さんがいつパクられるんやろうか...
一緒に遊んでて段々そんな気持ちが強くなってきたんです』


朝が訪れた。


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