正司、九

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正司、九

三十分もあるかないうちに林道の先にある山寺の
奥の院の駐車場についた。
結構上り坂で疲れたのもあってお互い息がきれた。
一旦ここで休憩しようと休んだ。

以前も同様にこの駐車スペースに着くと、一発入れる
休憩をとってた場所である。


日の出が見えた。
正司は雪原に寝転がってじっと黙って空を見ている。

僕は風景写真を撮ったり、その日の杖を振り回して
体操したりする。

『ここに来て...前は当たり前にあったシャブがなくなって、
改めて二人で山に来たら、正直バリクソ虫が沸くな』
そんな風に言うと、正司は

『確かに禰彌さん手持ち無沙汰してるみたいに見えますよ』


この頃は、まだ合法ドラッグやパウダーには手を出す前で、
裁判の判決も出ていなかったような覚えがある。
完全なシラフだ。

パキッてた時代、
夏の頃同じこの場所に二人で訪れたとき、
ヘリコプターを思わせる低音を響かせて我々のすぐ目の前に、
手のひらのように巨大な『オオスズメバチ』がすごい迫力で現れた。
シャブの異臭が混じった汗の、ゲロみたいな臭いのためか、
全身真っ黒の出で立ち(雀蜂は黒いものを攻撃する習性がある)
のせいか、僕はよく虫に攻撃される。
蜂にビビって地面に伏せて遣り過ごしたり。


冬の朝の静けさの中、
雪が積もった山の広場で二人、懐かしい出来事をしばらく話した。


『シャブ中やった俺と今の俺とどっちが良い?』
メランコリーな気分で日々を過ごすような、大人しい生活が当たり前に
変わりつつあった僕は、多分そうした変化への不安から正司に質問をした。

不意の質問に『へ?』と答え、
しばらく黙って考えていた。
正司は

『俺は、昔の禰彌さんのイメージが強かったんで...つるんでるときも
酒乱が酒の代わりにシャブやってる...みたいな』

黙って雪だまを作りながら聞いて相槌をうつ。

『でも実際に親しくなってみたら良い人で、それで禰彌さんがシャブで
ガンギマリになって、勢いに飲まれたのもあって、一緒についていかして
もらって...』

色んな思い出が記憶を駆けめぐる。

『色んなことを禰彌さんには教わったっていうか見せてもらったけど、』
時々話すのをとめて、どう言えば正しいニュアンスで伝えられるかを
考えながら、言葉を選んでいるようだった。

『最初は異常に集中したり、ひらめいたり、自分のことには絶対に
揺らがない自信だったりは、シャブにドはまりしてるからやな、
て思ってました』

揚げ足をとるように僕が
『シャブに...フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩に狂い咲いて
頭のなかに花咲いてたからな(笑)』

『照れ臭いからって茶化さんといてください』
正司に指摘されて、ヘラヘラ笑った。

『俺が消えたあと、何回か電話で喋った時に言ったの覚えてますか?』
...

禰彌さんは瞬間的にやけど、薬がなくても時々異常な能力だすんですよ。

...

電話ではそんな話をした覚えがある。


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