ケミカルトレッキング♪の最近のブログ記事

このサイトの右側にある、青いところ(笑)から、
散文詩と短編小説をいくつか集めたPDFファイルを
ダウンロードできるようにしました。

一度ダウンロードすれば、オフラインででも読めます。

クリックすると、スマホの場合

『ダウンロード』しますか?

と尋ねてくるので、
『ダウンロードして保存』
にしていただければ完了です。 


ちなみに著作権は私、禰彌にありますので。

内容は百ページで

・散文詩
・奈良の大森さん
・小話
・蟒蛇
・福井くん
・お花見事件
・環状線事件

です。


小休止を終えたあと、今度は渓流にむかって行く。


雪の積もった坂道を下ると渓流沿いのみちに行き当たる。
正司と僕は渓流を上流に向けて歩く。

懐かしい。
シャブがないのが残念で仕方ない。
僕がシャブ体験を綴ったブログを書いてると正司に話した。


『...そのカズヤさんがな、俺に文章を書くように勧めてくれてな
...で、俺らが山を徘徊してた話をカズヤさんが 薬物=ケミカルで
"ケミカルトレッキング"やな、て名付けたんや(笑)』

『...俺ら?て、なんですか?』
ハッとしたように正司が言う(笑)。

『言うの忘れてたわ(笑)、正司もそのブログに登場するんやわ、
お前をモデルにしたキャラクターが。
俺にシャブをたかる後輩として(笑)』
そんなふうに笑いながら言うと、正司は目を丸くした(笑)。

『ひ、ひでぇ!ウソっぱちや!なんで俺がシャブをたかるんスカ!?』
マジで焦った顔をする正司。

『ウソ嘘、ちゃんと誇れる後輩やで(笑)』


風は冷たいが、完全防寒で山を歩いているため額に汗をかく。
シャブをしているわけじゃないのにシャブ中みたいだ。

さっきの広場から一キロほど下った林道は渓流沿いの
別の林道と橋を跨いで合流する。
この林道の行き着く先の名前は
『ポンポン山』という(笑)。
ポン中全開のときに、一度はポンポン山の山頂にも行った、
勿論『ポン』中だから、『ポンポン』山の山頂を目指すのだ。
(注、地元や北摂地域のハイカーがよくハイキングで登る山です)

『また良かったらブログ読んでや(笑)』
坂を登り、真冬だというのに汗だくになりながら正司に言った。

『禰彌さん、もうシャブはやらないのですか?』
正司も息がきれるらしくハアハア言う。
夏場ならなんてことない低い山だが、冬場で雪が足首まで積もり、
時々滑ったりもする。

『シャブの体験ブログみたいに寒いもん書いてる間はな。
しないと思う、子供らが巣だった後に老後の楽しみに置いておくわ。』


正司は眼鏡を外し、その曇りをとる。
ここはポンポン山へ行くまでにある眼鏡橋と呼ばれる広場で、
林業用の車だとこのあたりまで登ってくる。

眼鏡橋の上で僕はリュックからカセットボンベとコンロを取りだし
二人分のコーヒーを作ることにした。


シャブの無い山は何故か寂しく、あれだけ好きだった山の静寂に
不気味さを感じたりもする。

僕はシャブの幻覚に踊らされて、山を居心地が良い場所だと
思っていたのか?

『正司、...もし、な将来何か思うことがあって、
俺がまたシャブ持って最後のケミカルトレッキングに行きたいって
言うたら、一緒に行ってくれるか?』

いつまでもこうして穏やかな気持ちで過ごしたい。
だけどあの覚醒剤が魅せてくれた狂える時代のような時間を、
最後にもう一度過ごせないか?と思った。


『いいですよ、禰彌さんが最後のケミカルトレッキングをするって
いうときは連絡ください。お供します♪』


俺が書いたブログにはな、正司と俺が共有した人生の時間を
俺なりに書いたんや、
あと昔のはなしとかな。

正司、良かったら暇なときにでも、ブログ読んでくれ。

タイトルはな

『愛と幻想の薬物』っていう名前やねん。


おわり。


正司?


シャブのない山の小休止はなんだか退屈だった。

正司と色々話をしている時に作った小さな雪だるまを持って、
その辺の木のあしもとに置いた。


『さて、シラフでトレッキングの続き行こか!?』

そう言って僕は頭に巻いたタオルを巻き直した。

『トレッキング?てなんスカ?』
正司が不思議そうに聞いてきた。

『トレッキング(笑)、パキパキの俺と正司が山で徘徊するのを
ケミカルトレッキングていうんや(笑)、そんな話をやな、最近...、』
笑いながら言う。
この時、思い出したように

『そうや!言うの忘れてた!俺最近ブログていうの始めてん、
シャブのろくでもない体験談を書いてるねん!』

そんなふうに少し興奮気味に言うと『へー、』と正司がぼくを見る。

『なんでまたブログなんですか?』
正司はあんまり興味ないのか?て雰囲気で質問してきた。

『俺の先輩のカズヤさんて話したの覚えてるか?ケンカで
ビール瓶で人の頭カチ割って、割れた瓶を別の敵に突き立てるていう、
鬼みたいな人(笑)で、仲間には優しい...ギャップの激しい...』

そう言うと、すぐに思い出したようで

『あー、禰彌さんにシャブ教えた人!まだ先輩らと交流あるんですね!
良かったです。禰彌さんがやたら頻繁に俺にばっかり連絡してくるから、
禰彌さんて友達は俺しかおらんのかと思ってました(笑)』

笑いながらさりげなくヒドイことを言う。

『いや、まぁ友達は少ないけど
...ポン中時代は正司にしか連絡してなかったけど、
逮捕されたあと、十年ぶりに先輩らに連絡したんや...。』


...半分凍りついた雪が積もった山道を歩きながら話す。
夜明けの山にはまだ人の姿はなく、我々が新雪の道を行く。

社会から落ちぶれてシャブに溺れたまま結婚してすぐに子供が産まれた。
夢が潰(つい)えて人生に挫折した僕は、行き先を見失い
『最果て』の行き止まりで絶望した。

産まれたばかりの息子と嫁さんと僕、小さな温かい家族。

僕は生きることも死ぬことも出来ない腰抜けだった。
かけがえのない小さな家族に支えられ、見えない未来を闇雲に探した。


初めてこの山に訪れた冬の朝、野生のリスが走っているのを
見つけたことが嬉しく、その日からというもの、シャブで発奮
し過ぎてパキパキをもて余した時は、昼夜を問わず一人山に行き
『何か』を探すようになった。


それだけが未来に見えた。

正司、十


実際には会わずに電話だけで正司が言ってた言葉。

『禰彌さん、自分で気づいていないだけで、
たまにネタキレでシラフの時にでも、
異常な集中力や無茶に思える判断とか、
山の業とか第六感が冴えまくってる時があったじゃないですか』

そんなことを言われたのを覚えている。

『思うんですけど、禰彌さんはもう覚醒剤が必要ないんじゃないですか?』

...正司がしているように、ぼくも雪原に大の字になってみる。
山登りで熱くなった体にヒヤリとした冷気がまとわりつく。

『シャブがなくても大丈夫っていう話の事か?』
吸い込まれそうな夜明けの空だけが見える。
僕の中の邪(よこしま)な欲求が吸い込まれて行けばよいのに。


『さっきの質問ですけど、シャブやってる禰彌さんとシラフの禰彌さんの
どっちがどう...は、どっちでも良いです、
ただシャブ中の禰彌さんは金貸せてうるさい、
シャブ止めた禰彌さんは静かで何考えてるんかわからんです』

正司は雪原のうえに起き上がり、駐車場?で拾った杖を持って、
僕が以前教えた『杖術の六本型』をしていた、

僕は雪原に座り込み、正司の杖の動きを見ていた。

...初めは大きく力強く...。

以前正司に教えたことだ。
僕自身も武道の技みたいな細かいことはわすれつつあるが、
人の演武を見ていると口を挟みたくなる。

『手順わすれましたわ(笑)』
杖術の型を忘れたと笑いながら言う、
『中心を捉えられたら、それでいいねん』
そんな風に答えた。

山遊びしていた熱い時期を思い出した。
シャブでパキパキになったら、拾ってきた杖で剣撃の稽古をしたり、
素手での古流の型や合気柔術の応用の不思議な技とか、
僕はシャブでパキパキなので何をしていても楽しいが、正司はシラフだ。
僕なりに彼を飽きさせないように目を引く色々をした(笑)。

そうした関わり合いのなかで、段々正司は僕を理解していってくれた。

命を救われたことも三度はある。


『まぁ、パクられてなくてもそろそろ終わりが近づいてる予感もあってん、
止めたい...でも止められない、みたいな中途半端な感じでな...
ちゃんと楽しまへんかったらシャブの神様に失礼やろ?散々世話になったし(笑)』

折角の正司と遊べる数少ない機会、辛気くさい話でシケたらツマランと、
アホなことを言って笑った。


正司、九

三十分もあるかないうちに林道の先にある山寺の
奥の院の駐車場についた。
結構上り坂で疲れたのもあってお互い息がきれた。
一旦ここで休憩しようと休んだ。

以前も同様にこの駐車スペースに着くと、一発入れる
休憩をとってた場所である。


日の出が見えた。
正司は雪原に寝転がってじっと黙って空を見ている。

僕は風景写真を撮ったり、その日の杖を振り回して
体操したりする。

『ここに来て...前は当たり前にあったシャブがなくなって、
改めて二人で山に来たら、正直バリクソ虫が沸くな』
そんな風に言うと、正司は

『確かに禰彌さん手持ち無沙汰してるみたいに見えますよ』


この頃は、まだ合法ドラッグやパウダーには手を出す前で、
裁判の判決も出ていなかったような覚えがある。
完全なシラフだ。

パキッてた時代、
夏の頃同じこの場所に二人で訪れたとき、
ヘリコプターを思わせる低音を響かせて我々のすぐ目の前に、
手のひらのように巨大な『オオスズメバチ』がすごい迫力で現れた。
シャブの異臭が混じった汗の、ゲロみたいな臭いのためか、
全身真っ黒の出で立ち(雀蜂は黒いものを攻撃する習性がある)
のせいか、僕はよく虫に攻撃される。
蜂にビビって地面に伏せて遣り過ごしたり。


冬の朝の静けさの中、
雪が積もった山の広場で二人、懐かしい出来事をしばらく話した。


『シャブ中やった俺と今の俺とどっちが良い?』
メランコリーな気分で日々を過ごすような、大人しい生活が当たり前に
変わりつつあった僕は、多分そうした変化への不安から正司に質問をした。

不意の質問に『へ?』と答え、
しばらく黙って考えていた。
正司は

『俺は、昔の禰彌さんのイメージが強かったんで...つるんでるときも
酒乱が酒の代わりにシャブやってる...みたいな』

黙って雪だまを作りながら聞いて相槌をうつ。

『でも実際に親しくなってみたら良い人で、それで禰彌さんがシャブで
ガンギマリになって、勢いに飲まれたのもあって、一緒についていかして
もらって...』

色んな思い出が記憶を駆けめぐる。

『色んなことを禰彌さんには教わったっていうか見せてもらったけど、』
時々話すのをとめて、どう言えば正しいニュアンスで伝えられるかを
考えながら、言葉を選んでいるようだった。

『最初は異常に集中したり、ひらめいたり、自分のことには絶対に
揺らがない自信だったりは、シャブにドはまりしてるからやな、
て思ってました』

揚げ足をとるように僕が
『シャブに...フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩に狂い咲いて
頭のなかに花咲いてたからな(笑)』

『照れ臭いからって茶化さんといてください』
正司に指摘されて、ヘラヘラ笑った。

『俺が消えたあと、何回か電話で喋った時に言ったの覚えてますか?』
...

禰彌さんは瞬間的にやけど、薬がなくても時々異常な能力だすんですよ。

...

電話ではそんな話をした覚えがある。


正司、八

結構山道を登った、道路はところどころ路面が凍っていた。
確かにこれでは正司のハイエースでは登れない。

正司と一度、
京都の西山の竹林で小雨降るなかヌタ場になったような林道で、
ハイエースのタイヤが泥濘(ぬかるみ)にハマってしまい、
深夜二人で必死になってそこから抜け出そうとしたことがあった。

その日、僕は初めて友人としてではなく先輩として正司を
叱りつけた。
正司は頭がキレるのが良いところだが、それ故か自分が正しいと
思い込む頑固さがあり、基本あまり人の言うことを聞かない(笑)。

その泥濘(ぬかるみ)にハマったとき、タイヤが滑らないように
二人して知恵を絞ってアレコレ方法を試した。

正司が運転し僕が泥塗れになりながら、板を挟んだり丸太を
挟んだりしたが、まったく駄目だった。
終いには泥と粘土で固められた林道が、車の重さに耐えられず
崩れ始め微妙に車が傾いている。
朝を迎えた頃には『にっちもさっちも』いかなくなったとき、僕が提案した。

『正司、俺誰か呼んでくるからこのまま待っててくれ』
そんなふうに言うと、

『誰がおるんスかこんな山の中、自力で出ますわ、車押してください...』
不貞腐れたように言う。

時間は朝の六時、もう三時間も泥濘にハマったままだった。
中途半端に試したことで、林道が痛み、寧ろ悪循環というのか車が竹林に
落っこちかけていた。

『ええから、これ以上無理したら車が竹林に落ちるって』
僕は正司を無理に誘ってこの竹林につれてきた責任もあり、
冷静に状況をよんだ。
だが、正司はうまくいかない苛立ちから怒っていた...が、
僕が先輩であるゆえか、ハッキリと怒りを口にせずスネた態度になった。


それをみた僕の怒りが炸裂した(笑)。

『なんじゃわれコルァ!このクソ餓鬼ゃ、おっ!!?』

いきなり僕の真剣に怒鳴りつけられた正司は
『えっ?』という顔になった。

『さっきから優しい言うとったらつけあがりやがってボケナス!
おんどれのやり方じゃ無理やから人呼びにいくて言うとるんやんけ!ぉお!?
たまには素直に歳上の俺の言うこと聞けやボンクラぁ!?』


正司は手にしていたロープをポトリと落とし、なぜだか瞬時に
『気をつけ』になり、『は...はい』と返事した。


結局近くの工務店の人にお願いをして、ハイエースを軽トラで
引っ張り上げてもらった。

そんなこともあった(笑)。


二人で山を歩いている間、一緒に山へゆき起こったたくさんの
出来事を二人思いだし、互いにあの時はどうの、と楽しかった。


正司、七

朝焼けの空の下、彼の地を歩む一人では何度となく訪れた、
正司と一緒にくるのは五年ぶりのことか...。


最初に正司を山へ誘ったときも冬の朝で...
その年は大阪でも積雪が多く見られ、二人で山の尾根を歩いたとき、
まるで雪原のような景色の中にいた。

死に損ないの僕は、確かに正司に揶揄されたように

『俺はシャブのオーバードーズで死ぬんや』
と口癖のように言い、
息子が産まれるころは一人で真夜中の山を徘徊し、何かを探した。

一年たった頃に僕は正司が働いていた店に顔を出して...つるみ始めた。
といっても僕が一方的に正司を山へ誘っただけだが。

そんな狂える夜を懐かしむ。


その日のトレッキング用の杖を脇に挟み、かじかむ手を揉みながら、
山道をのぼる。

林道の左手は土手というのか山であり、右は杉林だが激しい傾斜で
絶壁のようになっている。
時々森のなかから何かの音が聞こえる、我々の存在に驚いたシカか
シシだろう。


『禰彌さんの雰囲気...なんとなく変わりましたね?』
正司が白い息を吐きながら言う。

『憑き物が取れたみたいやろ(笑)?、嫁さんには言われるで』

そんなふうに答えると、そういうのもあるけどまた違うという。
僕には自覚出来ない何かが違うらしい。

『入れ歯で歯があるからかな(笑)?』
冗談を言うと、正司はケラケラ笑って違うという。

『僕は占いとかアテにしないですけど...
禰彌さんの雰囲気から死相?が消えたように見えます』

僕は正司の目をみて、そうか、と相槌を打った。

『僕が禰彌さんから離れたのは、もう俺が居らんでも大丈夫やと
感じたのと...』

正司の言葉を遮り、僕が
『ウザかったんやろ(笑)?』
そういうと、正司はニヤリと笑って

『それもあります(笑)、金貸せ金貸せとうるさいし(笑)』
二人は声を上げて爆笑した。


朝の峡谷に二人の笑い声が響く。


『禰彌さんなりに家族を思ってたんは気づいてました。
でもシャブは止めない、一緒につるんでいて段々怖くなってきたんです』

意外な言葉に振り返る。

空はもう白く、最初の目的地のもうひとつ山の奥にある山寺の
駐車場につく頃には明るくなるだろう。

『禰彌さんに娘さんも産まれて、子供が二人いて、
シャブは変わらないけど、仕事も始めた。
僕は半分安心しました、禰彌さんもあんまり死にたい、
と言わんようになったし...』

一旦言葉を切り、上り坂で息が切れてたのもあり
お互い体を大きく動かし伸びをした。


『俺は禰彌さんがいつパクられるんやろうか...
一緒に遊んでて段々そんな気持ちが強くなってきたんです』


朝が訪れた。


正司、六


夜明け前の空の下、林道の三叉路を左に曲がる。
のぼってきた道とは別に山を登る道が右にと、別の方角に下る道が左にとある。

その曲がり道から緩やかな下り坂を五百メートルほど進み、
道なりに進んだ所に、その先にある山寺の広いグラウンドのような駐車場がある。

山寺は修験の寺で毘沙門天を奉っている。
辺りの山は山伏の行場(修行をする山)であり、聖域である。


シャブに狂っていた時代、この界隈を正司と二人で徘徊した。

寺の領内に渓流があり、また通ってきたばかりの、
山を一つ越えた大きな石の鳥居の横には、
峠を越える道にそって別の渓流がある。


正司は林道沿いのグラウンドのような駐車場の端にハイエースを止めた。

以前なら車を止めると直ぐに僕は、シャブキットを取りだし静脈注射をキメて、
シャキシャキに化けていた。
シラフでこの山に来るのは初めてかも知れない...と思った。


『ここにくるのは正司は五年ぶりくらいか?』
カーステの音量を少し下げながら僕が訊ねた。

『そうっすね、もう五年も経つんすね?』
正司は車のエンジンを切ると、以前と変わらないタバコ『LARK』の新しい封を切った。


初めて正司と来た山と同じ場所だ。


時間がたったのもあるが、シャブが無いのは何だか不思議な気持ちだった。

リュックを背負い車を降りた。

そろそろ夜が明ける。
山ではこの時間だとケモノを多く見かけた。

車を止めたグラウンドのような駐車場の端に、伐採した山の木々を束ねて置いてある。
そうした枝のうち堅さと太さが手ごろな枝を選び、その日の杖にする。


初めて正司とスパーリングをしたのも此処だ。
そんなことを一人思いだし、僕もタバコに火をつけた。

『山に来たら虫沸くな(笑)』
正司を見ながらそんなことを呟くと

『しっかし、止められるモンなんですね?シャブって』
タバコを吹かしながら、正司は僕の顔を見ながら言った。

林道の来た方角にゆき山を登る。
正司の問いを少し考えてから

『止めようと思ってやめたん違うで(笑)?』
そう言うと、
そら逮捕されたらまぁ止めますよね?と笑いながら正司が言う。

僕は苦笑いしながら
『そやろ?』と言って、ところどころ凍りついている坂道を歩いてゆく。
空が明るく朝焼けに映える。

歩きながら正司に逮捕の時の状況を詳しく話した。


どこを目指しているとか話をしたわけではないが、二人とも自然に林道の先にある山寺の方角を目指す。

山寺の手前に頑丈な鉄の車輌通行止めの下り道への分岐がある、そこを下ると渓流に行き当たる。
その分岐まで二キロほど山道を登るのだ。

正司、五


夜明け前のまだ暗い山を登る。

この辺の林道は竹と杉があまり伐採されず、乱雑に伸びているので
昼間でも暗い。

時々腕の太さくらいの枝が道に落ちているが、
山寺の駐車場までの道はダートではなく鋪装れた道なので、
林道としては比較的走りやすい。

だが、歩行者がいたら車一台分ほどの道幅と細く、
しかも道の端はところどころ凍りついているのであまり加速はできない。

このところの雨が山では雪に変わるのだろう。木の影が深い場所は
雪がつもったままだ。

道はずっと上り坂で、助手席に深く埋もれた姿勢の僕にでも
時々路面が凍っているのがわかる。


初めて正司と二人で山へ来たときよりは雪は少ないが、
あの時を彷彿させる雰囲気に...。

当時とは違い今はシラフになった僕だが...何か安心感のような
ものを感じる。

『僕が禰彌さんから離れた理由...わかりますか?』
車のハンドルを油断なく切りながら唐突に正司が口を開いた。

車のカーステからは、当時の僕らが山でのドライブで頻繁に
好んで聴いた音楽が流れている。

https://youtu.be/ZR98iuOiOIk

曲に合わせて
...以前より数段下手くそになった歌を歌っていた僕は、
正司の言葉に遮られ口をつぐみ少し考える素振りをした。


『...正司のことやからな』

ひとことひとことを区切りながら僕の言葉を正司が
聞き漏らさないように言った。


『俺のためなんやろ?』

どんなふうに言葉にすれば良いのかわからないなりに言ってみた。


『一緒に山に行くようになったころの禰彌さんは
...僕から見てもメチャクチャ...ヤケクソになってるみたいで、
放っておけなかったんスよ。』

そんなことを言われ、僕はおもクソ恥ずかしかった(笑)。


『まあええやん、色々あったんや(笑)』
僕は照れながら言った。


『知ってますよ、全部聞きましたから(笑)、禰彌さん聞いても
ないのに喋りまくってましたやん?』


車は三叉路に差し掛かった。

右に曲がると山の上にある寺の駐車場に向かうのだが、
路面が雪で凍りついていて、ノーマルタイヤの正司のハイエースは
山を登れない。
左に行くと少し下にも寺と駐車場がある。

そっちへ向かうことにした。


アクセルを強く踏むとタイヤが滑るらしく、ゆっくり静かに道を下る。

正司?


ある日僕の携帯電話が使いなれたガラケーからスマートフォンに代わった。
僕がスマホにしたくてしたのではなく、電話会社のauから電話があって
『無料(タダ)で 交換できるからスマホを使ってくれ、』と
お願いされたのだ。

僕はスマホみたいにちょっと落としたら壊れてしまうようなものは
『不良品』だと考えている。
実用性に欠ける。

ガラケーは山で岩の上から落としても壊れないときもある、頑丈だ。
加えて電池の消耗も、ガラケーだと充電も楽だし...。

山や深い谷を散策してるときに圏外になるとスマホは、
そのままだとみるみる間に電池が消耗する。
だが機内モードという便利なものもあるな...。

だがスマホ一つに時計、通信、撮影、地図などと託すと万が一山のなかで
スマホをなくしてしまうと悲惨だ。
そんな意味で役割が複合しているのは利便性はあるけど、
個別の方が勝手は良いような...。

書いてみて人それぞれだと思った(笑)。


僕はブログもガラケーで書いていたので非常に楽だった。
文字変換もスマホになってから漢字が少ない...というかIMEに
登録されてる熟語が少ないのと予測変換が糞だ。

そんなわけでスマホを使うようになってから、使用中に勝手の悪さから
何度となく叩きつけた。だが僕のスマホは根性があるのか、裏の金属面
こそ傷だらけで凹んでいるけど、液晶?は割れない。

未だに何度もガラケーに機種変更を考えている。


ところが。

この僕のスマートじゃないスマホ糞電話機が、当時は連絡先の分からず
消息不明だった正司と僕を繋いでくれた。

どういうことかというとLINEである。
皆さんも経験ないですか?
自分は相手の電話番号が分からないのに相手はコッチの番号を知っていて、
LINEやFacebookが勝手に
『知り合い?』とかいって繋いでくる。

それである日正司と繋がった。

まあ言い換えれば、向こうは僕の連絡先を知りつつも
連絡してこなかったんですね(泣)。

最近のブログ記事

Powered by Movable Type 5.2.13